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アーカイブ原稿③書評「グランドセントラル駅・冬」

書評「グランドセントラル駅・冬リー・ストリンガー著、中川五郎訳(文藝春秋
初出……北海道新聞2002年1月6日付号
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 TVのニュースカメラマンとしてキャリアを始め、その後もセールスマンやグラフィックデザイナーとして働いていた著者が、アルコールやドラッグに溺れた揚げ句に職も住居も失い、ニューヨークでホームレス生活を送るようになる。

 「グランドセントラル駅・冬」は、その12年間のホームレス生活を綴ったドキュメンタリーである。しかし、本書は単なる特異な体験記、あるいは社会を告発し糾弾するためのルポルタージュなどの類では決してない。カート・ヴォネガットの絶賛を受けた本書は、中川五郎氏の名訳を得て、第1級の文学作品に仕上がっている。その理由はどこにあるのだろうか。まず、著者リー・ストリンガーの視線だ。氏はまず自分自身にカメラの焦点を定め、内省的な検証を自らに加えた後、カメラをパンする具合にニューヨークの現在や、ホームレス生活で出会った人々に焦点を移す。そこにあるのは、確固とした作家の視点だ。

 次にニューヨークという街そのものの魅力である。われわれの観点から見れば、本書に描かれるニューヨークは、決して明るい街ではない。ドラッグや死に彩られ、文明の終末を思わせる退廃に満ち満ちている。しかし、リー・ストリンガーの筆は、それを極めて魅力的に私たちに示してくれる。これもまた、著者が自らの立ち位置をはっきりと認識している証である。つまり、リー・ストリンガーは極めて客観的にホームレスとしての自分を、ホームレス仲間を、そしてニューヨークという街を見つめており、実はそれこそが作家に求められる才能であり、姿勢なのである。

 私たちは本書を読み、ニューヨークという街の混沌に驚き、異境に思いを馳せる。そしていつの間にか、リー・ストリンガーの境遇や心境にまで、ごくごく自然に同化し彼に共感しながらページを繰るのである。人間を描き、街を描き、そして時代そのものを描ききった名作というべき作品である。
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[ 2007/03/02 00:25 ] アーカイブ | TB(-) | CM(-)
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松井計のプロフィール

松井 計

1958年7月5日生まれ。大学卒業後、英語講師、古書店店主などの職を経験。1995年7月短編戦記小説集「血戦! 帝国艦隊進撃ス――零戦隊激闘記」を松井永人名義で刊行、文筆生活に入る。2001年幻冬舎より刊行した「ホームレス作家」から筆名を本名に戻し、以降は松井計の名前で活動、現在に至る。趣味は野球、酒、猫。社団法人・日本文藝家協会会員。

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