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残念だ

 横綱朝青龍が、一連の騒動の責任を取る形で引退した。残念で残念で仕方がない。朝青龍は突出した名力士だった。もう少し彼の相撲を見たかった。むろんそれは暴行事件を是認するという意味ではない。そこは誤解なきよう願いたい。

 実は、私はしばらく相撲を見ない時期があった。当時の横綱貴乃花が休場を繰り返している頃からだ。何だか相撲がつまらなくなり、NHKの相撲中継も見なくなった。何故、当時の私が相撲から遠ざかったかというと、俗にいう若貴時代は、大鵬、柏戸の柏鵬時代(私の子供の頃である)の縮小再生産にしか感じられなかったのだ。世間の熱狂と裏腹、何とも物足りなかった。

 私が最も相撲に熱中できたのは、千代の富士と隆の里が関脇で、大関昇進を争っている時代。2人とも後に横綱になるが、あの頃は面白かった。まずは2人のライバル関係があったし、何より千代の富士の相撲は革新的だった。あのスピード、あのパワー! 今でも懐かしい。そういう時代を経て、相撲界は若貴時代を迎えるわけだが、千代の富士の頃と比べると若貴の相撲は、時代を後退させたもののように私には感じられた。そして何時の間にか相撲を見なくなった。

 ところが数年前、今、小学校2年生の倅が相撲好きになり、私に、
『一緒にテレビで相撲を見ようよ』
 とよく言うようになった。そこで彼と共にテレビで朝青龍を見て、私は後悔した。こんな奴がいるのなら、もっと早く見ておけばよかったと。そこには、小柄でスピードがあるのにパワーもあり、加えて技のテクニックまである力士がいた。倅も朝青龍のファンで、以来、親子でよく相撲の話をするようになった。が、その朝青龍ももう29歳。現役生活の終わりが近いことも明らかだった。そこで私は倅に、
『朝青龍もそろそろだから、今のうちによく見ておいたほうがいい』
 と話すとともに、今年のうちに倅を国技館に連れて行こうと考えていた。それがタイムリミットだと思った。倅にとっては、自分のヒーローの幕引きを目撃する初めての機会だ。男の人生において、それは重要な経験になると思った。ところが今回の騒動で、それも叶わぬことになった。倅にとって――つまりは朝青龍のファンにとって不幸なことである。こんな唐突な幕引きは、あまりにも哀しく寂しい。

 しかし引退会見くらいは横綱が自分の意志を正確に話せるように、モンゴル語の通訳をつけてはどうか。そうしなかった相撲協会は無礼者と言われても仕方がない。寂しい話だ。
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[ 2010/02/04 20:00 ] スポーツ | TB(0) | CM(-)
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松井計のプロフィール

松井 計

1958年7月5日生まれ。大学卒業後、英語講師、古書店店主などの職を経験。1995年7月短編戦記小説集「血戦! 帝国艦隊進撃ス――零戦隊激闘記」を松井永人名義で刊行、文筆生活に入る。2001年幻冬舎より刊行した「ホームレス作家」から筆名を本名に戻し、以降は松井計の名前で活動、現在に至る。趣味は野球、酒、猫。社団法人・日本文藝家協会会員。

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